仙台高等裁判所 平成4年(行ケ)1号 判決 1993年3月10日
原告
高橋市蔵
同
大場昭
同
井上亀太郎
同
伊藤栄一
同
佐藤勉
同
南勝雅
同
沼沢正敏
同
森勝広
原告ら訴訟代理人弁護士
沼澤達雄
被告
山形県選挙管理委員会
右代表者委員長
安部敏
右訴訟代理人弁護士
古澤茂堂
右指定代理人
北崎秀一
同
石山義信
同
佐々木孝之
同
岩田均
理由
一 請求の原因1ないし4の各事実は当事者間に争いがない。
二 請求の原因5(選挙無効の原因)について
原告らは、平成四年二月九日執行の町長選挙の際、舟形町選管の行った投票所の設置及び投票方法は、県規程や通達あるいは慣行に違反し、選挙人の投票を著しく混乱させたものであるから、選挙無効である旨主張する。
1 よって、検討するに、請求の原因5の一の事実は当事者間に争いがない。
同5の二のうち、舟形町選管が選挙の際に県規程に従って選挙事務を行っていること、同規程二六条一項は、投票所の設備は選挙人の自由な意思の表明を妨げることのないように工夫をし、選挙人の数に応じ、受付、選挙名簿対照、投票用紙交付、投票記載等の場所を、選挙の期日の前日までに、おおむね別記第二八号様式に準じて設備しなければならない、と規定していること、同日選挙の投票所の設備について、昭和二一年一二月二五日の内務省発地第三〇四号各地方長官あて地方局長通達は、おおむね前記と同様の設備及び準備すること、但し、候補者の氏名の混記を防ぐため施設の許すかぎり、一つの選挙の投票用紙を入れさせた後、他の選挙の投票用紙を交付するように、投票所内の施設を格別にするとしていること、平成四年二月九日執行の同日選挙に際し、舟形町選管が設置した投票所の設備はおおむね県規程別記第二八号様式(別記図1)の上段図のとおりであったことは、いずれも当事者間に争いがない。
2 まず、原告らは、二月九日執行の同日選挙の際に、舟形町選管がした別記図1の上段図のような投票所の設置方法は、県規程二六条一項及び前記通達に違反する旨主張する。
しかしながら、県規程二六条一項は、投票所内の施設を「おおむね別記第二八号様式に準じて設備しなければならない。」と規定していることから明らかなように、標準的な設置方法を示したものに過ぎず、投票所となる施設の状況、係りや選挙人の人数等の諸条件によりこれを変え得ることを当然予定しているものであり、必ず別記第二八号様式に従うことを義務付けているものとは解せられない。また、別記第二八号様式についても、上段図と下段図の二通りの配置図が記載されているだけで、同日選挙の場合は下段図によるべきとの記載ないし表示もない。したがって、同日選挙に当たって、別記図1の上段図による投票所の設置方法を採ったとしても、県規程に何ら違反するものとはいえない。また、このように解することは、〔証拠略〕により認められる同規程二七条一項が、「投票箱は、一投票区につき一個を使用するものとする。ただし、二以上の選挙が同時又は同日に行われる場合には、一投票所につき二個以上を使用することができる。」と規定していることからも明らかといわなければならない。
次に、前記地方局長通達について検討するに、同通達も、「施設の許すかぎり」との条件のもとに、一つの選挙の投票用紙を入れさせた後、他の選挙の投票用紙を交付するように、投票所内の施設を格別にするとしているに過ぎない。本件において、〔証拠略〕によれば、本件の同日選挙における投票所開設場所は、いずれも公民館や集会所等であり、総じて場所的に狭隘であったこと、しかも冬期に実施された選挙であったため、施設等を開放的に利用することも困難な状況であり、実際に行われた別記図1の上段図による設備についてすら選挙人の多くが狭いと感じていたことが認められる。右状況の下、別記図1の下段図のような設置方法を採ることは、施設の面からみてもその条件が整っていなかったものと認められる。したがって、舟形町選管が同図の上段図の設置方法を採用したことにつき、その裁量が不当であったともいえず、結局、舟形町選管がなした投票所の設置方法が、直ちに前記通達に違反するものということはできない。
3 次に、原告らは、同日選挙の際の投票所の設置方法は、別記図1の下段図による設置方法によって行うべきことが慣行となっている旨主張する。
しかし、弁論の全趣旨によれば、同時あるいは同日選挙の際、別記図1の下段図による設置方法によって行われることが多いことは窺われるものの、原告らが主張するように、これが慣行化しているものとは到底言いえず、本件において、右主張を認めるに足りる証拠は存在しない。
ちなみに、〔証拠略〕によれば、舟形町において、たとえば、平成元年の参議院議員選挙の際の選挙区選挙と比例代表選挙の同日選挙と、平成二年の衆議院選挙と最高裁判所裁判官国民審査については、本件と同様の設置方法によって投票が行われていることが認められる。
4 さらに、原告らは、舟形町選管の行った投票所の設置及び投票方法によって、実際、選挙人の投票を著しく混乱させ、その結果多数の無効票を生じさせた旨主張する。
そこで、同日の選挙の実施状況についてみるに、弁論の全趣旨によれば、本件の同日選挙の際、各投票所において、受付係が選挙人の受付をし、名簿対照係が選挙人と選挙人名簿との対照を行った後、投票用紙交付係が、まず町長選挙の投票用紙を、次いで町議補欠選挙の投票用紙をそれぞれ一枚ずつ交付し、選挙人は二枚の投票用紙を持って記載台に向かい、記載台において各投票用紙に各候補者名を記載したうえ、これらを一緒に一個の投票箱に投票する方法で行われたことが認められる。
右事実によれば、確かに、選挙人において、投票用紙に記載をするに当たり、相互に取り違えて記載しないように注意を払う必要があり、弁論の全趣旨によれば、老齢者など一部の選挙人に記載に当たって戸惑いがあった事実を認めることができる。
しかしながら、〔証拠略〕によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 舟形町選管は、選挙に先立って、同年二月七日投開票事務従事者打合会を開き、選挙が自由かつ公正にしかも支障が生じないように行われるよう種々の説明と注意をした。
選挙当日、投票用紙交付係は、おおむね、右打合会による指示に従い、先に町長選挙の投票用紙を、次いで町議補欠選挙の投票用紙を交付し、二枚の投票用紙を一緒に渡すことのないようにし、その際、交付係は、選挙人一人ひとりにどの選挙の投票用紙であるかを説明しながら交付した。
(二) 舟形町選管は、投票用紙につき、町長選挙の投票用紙は白色に、町議補欠選挙は挑色にと、はっきりとした色調による色分けをし、しかも、投票用紙の候補者記載欄の右側に選挙名を表示するなどの工夫をした。
(三) 舟形町選管は、投票記載所の候補者の氏名掲示について、投票用紙と同様に、町長選挙については白色の紙を、町議補欠選挙については桃色の紙をそれぞれ使用して色分けをし、しかも、おおむね別記図2のとおり、これらを二か所にわたって掲示した。
(四) 第一〇投票区第一〇投票所では、老齢者数人の申入れにより、投票管理者の判断で、先に町長選挙の投票用紙を交付し、その投票の後に町議補欠選挙の投票用紙を交付して投票させた事実がある。しかし、これは申入れのあった数人に対してのみ行われたものであり、他の選挙人に対しては打合会の指示どおりの交付が行われた。右例外的な取扱いを行ったことにより、第一〇投票所において、異議の申出や混乱が生じた事実はなく、右取扱いも投票管理者の相当な判断として是認しうるものである。
また、他の投票所においても、舟形町選管の採用した投票所の設置及び投票方法につき、投票中に選挙人等から異議や不満が出されたり、混乱が生じた事実は認められない。
以上の事実によれば、舟形町選管は、投票用紙の交付の際の説明、投票用紙の色分け、候補者名掲示の工夫などにより、投票用紙を取り違えて記載することに対して、選挙人の注意を喚起する措置を十分取っていたものということができ、右状況の下では選挙人として通常の注意を払えば投票を誤ることはなかったものと認められる。他に、本件町長選挙の当日に、選挙の自由公正を阻害するような混乱が生じたことを認めるに足りる証拠はない。
次に、原告らは、本件の同日選挙において多数の無効票が生じた旨主張する。
しかしながら、本件において、弁論の全趣旨及び前記争いのない事実によれば、町長選挙における無効票は、投票総数五四八四票のうち六五票、町議補欠選挙における無効票は一四九票であり、今回の町長選挙の無効投票率は、過去に舟形町における町長単独選挙の際の無効投票率と比較して多少高めではあるが、山形県で実施された他の同日選挙の無効投票率とほぼ同程度であることが認められる。本件において、町議補欠選挙の無効票が跛行的に格段に多いのであり、右事実によれば、無効票の原因は投票用紙の取り違えによることより、他の要因によることが大きいと推察される。よって、この点に関する原告らの主張も理由がない。
三 請求の原因6(決定及び裁決の違法)について
原告らは、舟形町選管のした決定及び被告のした裁決には、いずれも事実誤認及び審理不尽がある旨主張する。
しかしながら、本件記録を精査するも、原告らの右の各主張を認めるに足りる証拠はなく、舟形町選管のした決定及び被告のした裁決につき、何ら違法な点は見受けられない。
よって、原告らの右主張も理由がない。
四 結語
以上の次第であって、原告らが被告に対し、公職選挙法二〇三条一項に基づき被告がした採決の取消しと平成四年二月九日執行された舟形町長選挙の無効を求める本訴請求は、その余の点を検討するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 豊島利夫 裁判官 永田誠一 菅原崇)